小沢一郎と平清盛シリーズ第一巻　小沢一郎と平清盛(Kobo/電子書)

この『小沢一郎と平清盛』という本は、全盛期の自民党幹事長として権力の頂点を極めながらも自民党を離党し、その後は日本に二大政党制を根付かせようと小選挙区制の導入や93年の細川連立政権樹立、そして09年の民主党政権樹立に尽力した小沢一郎氏と、平安時代末期に栄華を極めて日本史上初の武家政権を樹立したことで知られる平家の棟梁・平清盛の人物評やその生涯を追いながら、「小沢一郎と平清盛の比較論」を展開した内容です。
私が「小沢氏と平清盛には類似点がある」という視点に気づいた最初のきっかけは、政治評論家の故・三宅久之氏が2010年１月のテレビ番組で「平清盛の再来と言われている小沢一郎」と言っていたのを聞いた時です。ただ、これを聞いた時はそれほど気になったわけではなく、他の人物について調べている中で次第に「どうも小沢氏と清盛は似ているのではないか」という気持ちが強くなっていき、本格的に調べていく中で「この二人の類似ぶりは本当に面白い」という気持ちになっていったものです。
ただ、ここで紹介するのは雑学的な「単なる興味本位の人物比較論」ではなく、もっと深い内容になっていると思います。それについて理解してもらうために、「現在の人物と過去の人物の比較論をすることの意味」について述べてみたいと思います。小沢氏は著書の中でこうした言い方をしています。
「僕自身が歴史に興味を持っていて、どんな問題に対しても過去の歴史の中にヒントを求め、そこから解決策や対応策を考えていく習慣を持っている」
「現在起きている出来事の本質を見抜き、どこに問題があり、どうすれば解決の道があるのかを知るには、自分の頭で考えるよりも、過去の歴史に学ぶ方がずっと具体的だし、ヒントに満ちている」（小沢一郎『小沢主義』集英社インターナショナル136､138頁）
こうした発想は「歴史に学ぶ発想」と言えると思いますが、小沢氏に限らず、世間の大半の人はこの発想を「歴史の出来事に学ぶ」という視点で考えることが多いと思います。
これは言わば「現在の出来事と過去の出来事を比較することは、現在の出来事の本質を見抜くことにつながる」ということになると思いますが、この発想を応用すれば「現在の人物と過去の人物の比較」をすれば「現在の人物の本質を見抜き、その人物が将来どういう道を歩むのか判断することも可能になる」という意味になると思います。
本質的な類似点とは例えば「性格や傾向性の類似」というような要素で、そうしたものが類似していた場合は「人生の歩みそのものも似てくる」と言えます。そして、人物比較論をする際に大事なことは、「現在の人物の未来がどうなるかを考えるために、類似している過去の人物が歩んだ道を参考にすること」であり、数多くの類似点を見つけることにこだわる必要はないというのが私の考え方です。

※「小沢一郎と平清盛シリーズ」について
この「小沢一郎と平清盛シリーズ」は「2009年の民主党政権樹立の最大の立役者と言える小沢一郎氏」と「平安末期に日本史上初の武家政権である平家政権を樹立させた平清盛」の比較論と言える『小沢一郎と平清盛』で打ち立てたコンセプトを発展させ、「小沢氏に近い（あるいは敵対する）政治家とそれに類似する平安末期の人物の比較論」としてシリーズ化した内容です。
こうした「現在の人物と過去の人物の比較」をすることは「現在の人物の本質を見抜き、その人物が将来どういう道を歩むのか判断することも可能になる」と言えるだけでなく、様々な人物を対象にこうした比較論を展開していくことで「現代の政治状況が過去（平安末期から鎌倉初期）のそれと密接につながっていることが理解できるため、現代の政治がどんな方向に向かっていくのかさえ見えてくる」と言えます。
この「小沢氏に近い政治家と平安末期の人物の類似点を探す作業」は非常に面白く、小沢氏だけでなく松木謙公氏、原口一博氏、細野豪志氏と彼らに類似する平家一門の人物の検証をする中で「なんで彼らはこんなところまで似ているんだ？ 本当にそっくりじゃないか！」と何度も驚愕しただけでなく、気がついてみると「小沢氏に近い（あるいは敵対する）現代の政治家とそれに類似する平安末期の政治家」が相当なところまでリンクする状態になってしまったものです。
これは「様々な政治家の比較論が進めば進むほど、現代の政治状況と平安末期の政治状況がどんどんリンクして見えてくる」ことも意味すると言えますが、私としてはこの企画を「『平家物語』と同様の、自由な増補加筆に基づく発展型の本にしたい」と思っていまして、将来的にはこのシリーズのコンセプトを理解した多くの人々によって増補加筆され、「平家物語をはるかに超えるような壮大な物語になって欲しい」と思っています。

※「小沢一郎と平清盛シリーズ」シリーズ構成（2018年3月時点）
第一巻『小沢一郎と平清盛』
暫定二巻『松木謙公と平重衡』
暫定三巻『原口一博と平宗盛』
暫定四巻『細野豪志と平維盛』
暫定五巻『前原誠司と平重盛』
暫定六巻『小池百合子と建礼門院徳子』
暫定七巻『小泉純一郎と源義朝』
暫定八巻『渡邉恒雄と後白河法皇』

まえがき ～「小沢氏と清盛の比較論」に限らず、現在と過去の類似点探しは面白くて仕方がない
1 小沢氏と平清盛の生涯を概括すると「両者とも二度のピークがある」ことがわかる
2 小沢氏にも清盛にも「教育しているのに若い人が育ってくれない不満」がある
3 小沢氏が筋金入りの改革者であることは「仏教を重んじながら信長を尊敬している」ことでわかる
4 旧体制側は天皇特例会見問題での「不敬」発言以降、小沢氏に対する攻撃を先鋭化させた
5 後白河が清盛を排除しようとした背景に旧体制側の「国のかたちが変わってしまう恐怖」があった
6 清盛が断行した「宋銭による貨幣経済の導入」は日本経済史上に輝く大変な功績である
7 治承３年クーデターは清盛に朝敵の汚名を着せようとした後白河の挑発によって起こった
8 クーデターでも倒れずに復活した後白河は清盛にとって「乗り越えられない巨大な壁」だった
9 南都焼き討ちによって清盛は「朝敵」だけでなく「仏敵」の汚名も背負うことになった
10 清盛にとって後白河が巨大な壁だったのと同様、小沢氏にも「どうしても越えられない壁」がある
11 清盛が行った「頼朝助命と伊豆配流」は、この人の背後にある深慮遠謀を示唆している
12 清盛は社会の抜本的改革のために「あえて平家政権を悪役にして社会の不満を自分たちに集中させた」という可能性がある
13 元秘書裁判の有罪判決に対する支持が多い根本の理由はマスコミ報道ではなく「国民の不満感」にある
14 小沢氏の激烈な検察批判は「判断を誤った」のではなく「旧体制側に対する挑発」である
15 小沢氏は検察やマスコミ、そして霞が関の抜本的改革をねらって彼らを罠にかけた可能性がある
16 民主党政権が３年３ヶ月で政権から転落したのに対し、平家政権も３年８ヶ月で政権を追われている

ここまで様々な「小沢氏と清盛の類似点」を挙げてきましたが、この二人の最大の類似点は「頂点を極めた満足感を得ている」ことと「いざとなったら生命も名誉も捨てられる覚悟を持っている」ことだと思います。
清盛という人が「頂点を極めた満足感を得ていた」ことは、12節で紹介しました平家納経の「今生の願望已に満ち、来世の妙果宜しく期すべし（今生の願望はすでに満たされており、来世の妙果もおそらく約束されるだろう）」という願文（感謝文）から明らかだと思いますが、小沢氏もかなり以前に同様の満足感を得ていたことは、この人が92年12月に言っていた「俺は自民党の幹事長をやって権力も何もかも手に入れたし、どんなものかも分かった。だからもう欲しいものはない。俺にとってあとはこのお国がどうなるかということだけなんだ」の言葉から判断できると思います。
そうである以上、清盛とまったく同じ「筋金入りの改革者」である小沢氏が、社会を抜本的に改革するためにこれから何をやろうとしているかは自ずと見えてくると思います。
私はこの本の12節で「清盛が治承３年クーデターを起こした理由」として、「あえて平家政権を悪役にして社会の不満を一挙に自分たちに集中させ、旧体制の遺物を道連れに滅ぶことで社会を抜本的に改革しようとしたのではないか」という解釈を提起しましたが、考えてみますと「民主党政権は当初は国民の期待を集めたものの、国民が望んだ政治をしてくれないので国民の間に徐々に不満が蓄積していった」とか「当初は改革派だった民主党が政権を取った途端に官僚の言いなりになってしまい（例えば野田政権に対しては「財務省の傀儡政権」というイメージが定着した感がある）、民主党が旧体制側と一体化してしまった」ところなども「平家政権にそっくりだ」という思いになるので、「歴史は繰り返すとはこういうことを言うんだろうな」という思いになります。
～「16 民主党政権が３年３ヶ月で政権から転落したのに対し、平家政権も３年８ヶ月で政権を追われている」より

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